掌編小説「カニのオマージュ」第11話

生わさび 連載短編小説「カニのオマージュ」

そもそも、私は例のカニ男のことを何も知らないわけなので、探しようもないではないか。
まったく、理不尽のきわみである。お前が探せよって感じだ。
手がかりを求めに彼女に再度電話をする。

これまた圏外で通じない。
どういうことだ。

とりあえず彼女に会わねば。彼を探すのであろうと、断るのであろうと、会わないことには始まらぬ。
身支度を整えて、彼女のワンルームに向かう。

玄関のインターホンを鳴らす。

「おお、入れよ。」

部長の声がした。
どういうことだ。

「さて、これで全員揃ったなあ。」
2匹のカニが輪ゴムで縛られている。

「部長これは一体どうしたことで。」
「この2匹にはきつくお仕置きをしようと思ったんだ。あれから、また一緒にいたようだからなあ。」
「え?彼はいなくなったって聞いてましたが。」
「そう言わせたんだ。で、来てみたらいたっていうのが、意表をついて面白いだろう。」
別に面白くもないなあ。
「で、この2匹どうしたい?」
「そう言われましても。」
「とりあえず賞味しようか。ほれ、ポン酢も、わさび醤油もあるぞ。このわさびは静岡の生わさび、醤油は銚子からわざわざ取り寄せたんだ。おいしいぞ。」

部長はまず、彼氏の脚を一本もぎって、ほおばり始めた。

良子はその様を見て、目に涙を浮かべている。昨日から一体何回泣いたことやら。自分はやっぱり女性の涙に弱いということを改めて実感した。こんなろくでなしの女であってもやっぱり同情したくなる。

「うーん、やっぱり脱皮直後はすかすかで旨くないなあ。まあ、いいや、こいつはそのうち食べることにしようか。まあ、1ヶ月ぐらいしたら食べるとしよう。それまで風呂にでもつっこんどけばいいかな。」

「じゃあ、いよいよ、良子を食べるとしようか。でもその前に・・・」

部長は服を脱ぎ始めた。
ああ、目眩が・・・。
私は、その場にあった包丁に目を留めた。
これで部長を刺すか?
そんな度胸が、自分にあるのか。

確かに旨そうである。本当に旨そうだ。よだれが。しかし、彼女が必死に助けを求めているのが分かる。食べるべきか助けるべきか。
私は包丁を手に取った。

※画像はこちらからお借りしました

コメント

  1. - より:

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    ひぃー!!この展開っ!予想外w黒幕は部長!?佐藤課長たべちゃうの?それとも部長を?さぁ、どうしよう…その時、塾長がっ!←何故か意味不明な予告を!?

  2. - より:

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    毎日カニの事ばかり考えて暮らしております(笑)部長と課長が二人でカニ食べるってそういうこと?ちょっとびっくり。いつも面白いお話を読ませてくださってありがとうございます。

  3. tamuuuuu より:

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    ***様>どうなんでしょうね。何をするつもりなのやら。謎ですね。ああ、もう謎は全て解けましたね。そうそう、お気に入りの件ですが、何か変ですね。なんだか最近ヤフー以外のお気に入りが消えてしまったりとか、変です。確かに登録できているはずなんですけどね。上限ってあるんですか?あるってなったら困るなあ。

  4. tamuuuuu より:

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    ねんね様>私は、この作中では肝心なところでは残念ながら登場してないですね。もっと最初から出ておけばよかったかなあ。って、会社員だし無理です(って更に意味不明である

  5. tamuuuuu より:

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    ユキ様>やっとカニから解放されますよ。私もとりあえずカニから解放されてほっとしております。面白いって言っていただいてありがとうございます。カニのオマージュはできればシリーズ化したいと思ってます。でもそうしたら、ずっと解放されなくて疲れるかも。

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