そもそも、私は例のカニ男のことを何も知らないわけなので、探しようもないではないか。
まったく、理不尽のきわみである。お前が探せよって感じだ。
手がかりを求めに彼女に再度電話をする。

これまた圏外で通じない。
どういうことだ。

とりあえず彼女に会わねば。彼を探すのであろうと、断るのであろうと、会わないことには始まらぬ。
身支度を整えて、彼女のワンルームに向かう。

玄関のインターホンを鳴らす。

「おお、入れよ。」

部長の声がした。
どういうことだ。

「さて、これで全員揃ったなあ。」
2匹のカニが輪ゴムで縛られている。

「部長これは一体どうしたことで。」
「この2匹にはきつくお仕置きをしようと思ったんだ。あれから、また一緒にいたようだからなあ。」
「え?彼はいなくなったって聞いてましたが。」
「そう言わせたんだ。で、来てみたらいたっていうのが、意表をついて面白いだろう。」
別に面白くもないなあ。
「で、この2匹どうしたい?」
「そう言われましても。」
「とりあえず賞味しようか。ほれ、ポン酢も、わさび醤油もあるぞ。このわさびは静岡の生わさび、醤油は銚子からわざわざ取り寄せたんだ。おいしいぞ。」

部長はまず、彼氏の脚を一本もぎって、ほおばり始めた。

良子はその様を見て、目に涙を浮かべている。昨日から一体何回泣いたことやら。自分はやっぱり女性の涙に弱いということを改めて実感した。こんなろくでなしの女であってもやっぱり同情したくなる。

「うーん、やっぱり脱皮直後はすかすかで旨くないなあ。まあ、いいや、こいつはそのうち食べることにしようか。まあ、1ヶ月ぐらいしたら食べるとしよう。それまで風呂にでもつっこんどけばいいかな。」

「じゃあ、いよいよ、良子を食べるとしようか。でもその前に・・・」

部長は服を脱ぎ始めた。
ああ、目眩が・・・。
私は、その場にあった包丁に目を留めた。
これで部長を刺すか?
そんな度胸が、自分にあるのか。

確かに旨そうである。本当に旨そうだ。よだれが。しかし、彼女が必死に助けを求めているのが分かる。食べるべきか助けるべきか。
私は包丁を手に取った。

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