やっぱりこういうことになってしまったか。仕方がない。
でも、もうたかられる理由はないのだ。そう思ったらなんだかさっぱりした。
今まで家にいても戦々恐々、針のムシロ状態であったので、むしろほっとしたわけである。

こうなったからにはやることは一つ。

彼女のワンルームマンションの場所は分かっていた。
出勤前の彼女を待ち伏せて、ドアをでてきたところを押さえるのだ。
中に踏み込んで、今までみつがされた品物の数々を巻き上げるのである。これを売り払って、少しでも会社の金を穴埋めして、その後は何年かかけて少しずつ穴埋めしてゆくことにしよう。
こんなことになるのなら、さっさと妻に正直に話して別れていたほうがよかったなあ。
せめてそうすれば昨日のシャネルだけは買わずに済んだのに・・・(泣

私は深夜の電車に乗り彼女のワンルームのある駅に向かった。

駅を降りたときは深夜の2時。
周辺を見回しても泊まれるような施設はなかった。

新聞紙にくるまって、公園のベンチでとりあえず仮眠することにする。これではまるでホームレスだ。っていうか、本当にホームレスなのだから仕方がない。

朝の6時に携帯の目覚ましに起こされて、彼女のワンルームに向かう。

玄関近くで張っていれば、彼女が出てくるはずである。その瞬間を押さえるのだ。
待つこと1時間、彼女の部屋のドアが開く。
そうして出てきたのは、彼女ではない、別の若い男のカニである。

はらわたが煮えくり返るのを通り越して、まるではらわたがよじれるようだった。その男を殴ってやろうかと思ったが、とりあえずやり過ごすことにする。

その数分後、彼女が出てきた。

私は彼女を捕まえようとする。

彼女は逃げようとした。しかし、カニの悲しさ、早く動けないのですぐに捕まる。

しかし、私が彼女の腹を抱えた瞬間、彼女は満身の力を込めて私に抱きついてきた。

「ぎョゑーーーー!」

足に生えている無数のとげが私に突き刺さる。
剣山を敷き詰めた床に放り投げられたような激痛に絶叫する。

しかし、ここで負けるわけにはいかない。

私は彼女の唯一無防備な目に向かってパンチを食らわす。

彼女の体がよろめく。
絶好のチャンスを見逃すわけにはいかない、腹をめがけて思い切りキックする。しかし、血糊で足が滑り私が逆にひっくり返った。
そこに体制を立て直して、彼女が私の上にのしかかる。私の知らない初めて知る彼女の質量だった。
殻を殴る。びくともしない。逆に自身の拳が砕けるかのような激痛である。キチン質の甲羅はまるで鋼のような堅さである。
仕方がない、これだけは使いたくなかったが。

甲羅バサミをカバンから取り出す。

本能的に彼女がたじろぐ。
私はすかさず立ち上がり、甲羅バサミで脚を挟み渾身の力を込める。

「メキメキメキ・・・・・」

甲羅の一部分が割れ、白い足の肉がむき出しになる。こんな修羅場だというのにうまそうだという気持ちを抑えることが出来ない。今までよく私は彼女を食べなかったものである。

彼女は部屋に逃げ込もうとする。

その刹那、彼女を足蹴にしてひっくり返した。彼女は必死に起き上がろうとするが、10本の足はむなしく空気をつかむだけだった。私は足の先を引っ張り、ドアの中に引きずり込む。

鍵をかける。

「何だ、今の男は!説明しろ!」
「あんたには関係ないじゃない!」

あんた呼ばわりである。

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