掌編小説「カニのオマージュ」第10話

発泡酒 連載短編小説「カニのオマージュ」

私は冷蔵庫から買い置きした発泡酒の缶を取り出して、これを立て続けに飲んでいた。
彼女の部屋で日本酒を飲んでいたのだが、全く酔えなかったのだ。

夜の12時を回った頃に携帯が鳴った。
最近はもう電話が鳴ることが恐ろしくてならないのだが、表示を見ると彼女からだった。

「課長、彼に一体何をしたの?」

正直に話すべきか逡巡した。

「彼、さっき電話してきたの。もう別れようって。私、彼がいなかったら生きていけないって思ってるのに、もうどうしていいかわからなくて。」
「いいじゃないか。君には部長だっているだろう。部長は未婚だぞ。」
「彼に何をしたの!」
「何もしちゃいないさ。」
「嘘。」
「ほんの脚を一本もぎ取っただけだよ。」
「信じられない。課長ってひどい人。鬼だわ。」

鬼はどっちだよ。

「でも、僕だって彼からひき殺されそうになったんだ。」
「彼がそんなことするわけないじゃない。課長はなんでもすぐ人のせいにしようとするんだわ。許せない。私、あんなことさせられてすごーく傷ついてるのに、彼にヨシヨシしてもらえないんだったらもう生きていけないわ。彼が、もし帰ってこなかったら私は課長をぜーーーったいに許さないからね。」
「許さないってどうするんだよ。」
「殺すわ。」
「何?」
「悪いのは僕だけじゃないだろう。部長もだろう。」
「その時は部長も許さないわ。部長も殺すの。」
「だから、お願いね。彼を探して。彼をもし見つけられなかったら二人とも殺すわ。」

えらいことになった。
明日から会社に行くつもりだったのに・・・。

朝になった。
休みの旨を伝えるため会社に電話をする。
部長は来ていないらしい。なんでも、今日は休みだという。
おかしい、めったに休むような人ではないのだが。
部長の携帯に電話をする。

「こちらはNTTドコモです。お客様のおかけになった電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためかかりません。」

一体、部長はどうしたのだろうか。

※画像はこちらからお借りしました

コメント

  1. 人魚 より:

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    すご~い^^。すっかり『ハードボールド』小説ではありませんか(^^)

  2. tamuuuuu より:

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    いつのまにか北方謙三みたいな。冗談です(笑 かにだけにハードボイルド(固ゆで)って感じでしょうか。

  3. 人魚 より:

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    >「かにがハードボイルド」って書こうかどうか迷ってたんですよ(笑。ちなみに『蟹のお饅頭』というのも中華でありましたよ。調べたんです♪えっ?今見たくないですか??

  4. - より:

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    はっ!まさか部長…すでに?

  5. 人魚 より:

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    良子が愛しているのは若いカニで、佐藤さんと部長は利用されていたのかしら??でもって、部長というのは仮の姿で、実はカニだったりして???

  6. tamuuuuu より:

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    ねんね様>その謎は今日分かります予定です。絶対、多分、そうだろう、そうかもしれない、そうだったらいいなあ、

  7. tamuuuuu より:

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    にんぎょ様>部長がカニであるという落ちだけはないことは保障いたします。でも、この世界であれば部長でありつつカニっていうのもありではありますな。

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