待つこと約2時間である。
中からカニの男が出てくるのが見えた。
物陰に潜みつつ、あとを追う。

このあいだ見た例の若いカニに間違いない。

男はワンルームを出て、駐車場に入った。

車の鍵を開けて中に入ろうとするその瞬間、私は男の脚を捕らえ思い切り引っ張った。
すると脚はズルリと音を立てて、いとも簡単に外れてアスファルトの上に転がった。

彼はこちらに向き直り反撃の体制をとろうとする。
もう既にその時に甲羅バサミを差し入れて私は力を込めた。
あっけないほど、甲羅は簡単につぶれた。

「お願いだから殺さないで。お願いです。何でもしますから。」

カニは私に向かって感情のない目に涙を浮かべて土下座した。

「僕は脱皮直後なんで、食べてもおいしくないです!だからお願いです。食べないで。」

「いや、許さないぞ。お前が貢いでもらっていた金は俺が出していたんだよ!どんな想いで俺がその金を出していたかお前には分からないだろう。」

「すいません、すいません、すいません。このとおりです!この脚がもがれてしまったことも訴えるつもりはありません。そのもげた脚はお持ち帰りになって食べてもらってもいいので、どーか、命ばかりは助けてください。僕には年老いた貧しい両親もいますし、病気の妹もいるんです。」
「じゃあ、何で学生の分際で、車になんか乗っていられるんだよ。」
「これは彼女からもらったものですから。」

またしても、血が逆流する。

「その車を買った金っていうのは俺が工面した金なんだ。」

私は、彼を思い切りけり倒す。
彼は無様にひっくり返った。

でも余りにも彼が泣いて懇願するので、見逃してやることにしたのである。蹴り返して起こしてやった。

「もう、彼女に近づくな。分かったか。」
「はい。分かりました。命を助けていただいてありがとうございます。では帰ります。」

彼は車に乗り込みエンジンをかけた。

しかし、急発進、私の方向をめがけて突進してくる。あのカニめ、嘘をつきやがったな。
これをとっさに左によけて間一髪かわしたが、彼は全速力でバックしながら車の方向を変えてまた突っ込んでくる。

よけられない!