リボーンの棋士 鍋倉夫/小学館

「リボーンの棋士」である。
ふざけたタイトルであることと(リボンの騎士のパロディ?オマージュ?としてはあまりにもお粗末なんじゃね?と思った)、表紙の絵柄があまりタイプではなく主人公と思しき人物が軽そうに見えるので、将棋マンガとは知っていたのだがあまり興味がなかったのである。

しかし結論である。

絶対に読め!死ぬ前に読め!
※ちなみに記事の一番後ろに既刊4巻のあらすじがあるので、興味のある方はどうぞ。あらすじだけ読んでも面白いと思う。

月並みな表現ではこの気持ちを表現できないので、こんなお勧めになってしまうわけだ。
ちなみに将棋を題材とするマンガではあるが、楽しむために将棋の知識がなくても全く問題ない。このあたりは大昔に一世を風靡した5五の竜などとはちょっと異なる。スポーツマンガのほとんどはそのスポーツを知らなくても問題なく楽しめるが、それと全く一緒である。

さて、リボーンの棋士であるがリアリティがまずすごい。
長年にわたって将棋界をリードしているトッププロ羽生善治氏が帯コメントを寄せている。

「この作品から将棋界の奥深さを感じてもらえたら嬉しいです。」

とのことである。
トッププロをしてこのようなコメントが寄せられる程のリアリティである。

ではストーリーである。
プロ棋士養成機関である奨励会を年齢制限で強制的に退会させられプロへの道を断たれた主人公の安住。
全国こども将棋名人戦(おそらくは現実にはプロ棋士の登竜門である小学生名人戦のことを指していると思われる)に優勝し、類まれなる才能を嘱望されていたのが彼である。

しかし、結局はプロである四段に年齢制限である26歳までに昇格することができず、29歳の現在ではカラオケ店でアルバイトの仕事についている。
三段から昇段することができずプロへの道を断たれた話は実際に枚挙にいとまがない。

奨励会に入るだけでもとてもとてもすごいことなのだ。
奨励会の最低ランクは六級であるが、この最低クラスでもアマチュアの三段程度の棋力に相当する。
三段というと将棋道場の常連では最強クラス、市の将棋大会では優勝できる可能性があるぐらいの実力だ。
それでやっと奨励会に入会が許され、六級程度から始まり三段まで昇格しリーグ戦を勝ち抜いてようやくプロの資格である四段にたどり着くのが将棋のプロの道。
天才達がしのぎを削り、更にその中の一握りがプロになるという厳しい厳しい世界である。

主人公の安住はプロである一歩手前である三段までたどり着きながらの挫折である。
天才でありながらも将棋しかなかった主人公には未来が見えない。
大学生アルバイトからもバカにされながら将棋にはもう触れることのない3年間を送る。

しかし、やはり将棋は自分の一部であったことに改めて気が付き、楽しみのために将棋を再開する。ここにアマチュア棋士として安住が再度誕生(リボーン)するというストーリーだ。

プロになるという目的がない中でも、将棋が好きだったという奨励会に入る前に回帰して、楽しみのために将棋に打ち込む姿がすがすがしく実に爽快である。
イベントでたまたま抽選であたった新進のトッププロとの指導対局でも、純粋に楽しむ気持ちで指して勝利するという奇跡を起こす。

リボーンの棋士 主人公安住の回想と明星プロとの対局
安住が将棋の楽しさを思い出すシーン

このトッププロの明星六段は奇しくも、奨励会でこの勝負で負けたら引退確定という時にあたった後輩であった。勝ったシーンは思わず目頭が熱くなりそうなほど感動である。

リボーンの棋士に登場する人物たちはまたみな湿り気を帯びていて、これがまた切なくてとてもいい。

やはり元奨励会員でプロになることができなかった土屋。
食品の製造工場で生きる目的を見つけることができずに死んだように生きている。

東大を卒業し総合商社のエリートサラリーマンであるにもかかわらず、アマ三冠、そしてプロ相手にも5割の勝率を上げている片桐。
本当はプロ棋士になりたかったにもかかわらず、父の無理解によって奨励会に入ることができなかったため、奨励会員に対して敵意をひそかに抱いている人物。

これらの人物たちにも生き生きと血が通っていて一緒に切ない気分になる。

大事なことなのでもう一度書くのだ。

絶対に読め!死ぬ前に読め!

なのである。

ひょっとしたら、これを読んだら将棋について興味がわくかもしれない。

将棋の奥深さを表す「リボーンの棋士」の一ページ

この表現はうまく将棋の難しさ、面白さを言い表していると思う。自分はたかだかアマチュアの初段ぐらいなので将棋の何たるかなんてものは全く分かっていないのであるが、真の面白さはようやく最近少しわかってきたように思う。

「将棋盤なんてあんなに小さいんだから簡単に見渡せるじゃん!」

って思われそうだが、将棋の駒は40枚ある。
将棋の駒が2枚あればその間に相互作用が起こりうる。3枚の駒があれば4通り、4枚の駒があれば11通り、5枚なら26通り、40枚だと100億通り以上の相互作用がありうるわけである。自分が一つの手を指すことによって、これらの作用がすべて影響するわけだ。一つの局面で平均指し手の数は100手前後あるといわれているので、たった1手差した後の相互作用を考えると、1兆もの相互作用がありうるわけだ。基本は3手の読み、プロなら場合によっては100手ぐらい読んだりもする。となるとそこに内包される変化はほぼ無限大といっていい。

自分が駒を1つ動かすことによって、全体がガラッと変わるのである。
その駒同士の相互作用の可能性は無限大に近い。無限大の空間を俯瞰して、どれが最善の着手なのか?を必死にとらえようとしている比喩である。

すげーなー、これ。って思ったわけである。

話は全く変わって、特筆すべきが棋譜の監修をしているのが現在将棋講師をしている鈴木肇氏である。
鈴木肇氏は主人公の安住と同じく、奨励会で三段まで昇段しながらも惜しくもプロになることができなかった俊才である。
産経ニュースから引用するのである。

鈴木さんが羽生善治棋聖(47)=竜王=に憧れて奨励会に入ったのは中学3年のとき。昇級、昇段を重ね、22歳で三段リーグに初めて参加した。年2回開催され、プロになれるのは原則として上位2人だ。1回目の三段リーグは前半、好調な滑り出しで「このままいけるんじゃないか」。だが後半は負けが続き、五分の成績だった。

2回目以降も負け越しが続き、「将棋が怖くなってしまった」。結局、奨励会を突破できず退会が決まると、帰りの電車で涙があふれた。中学から将棋一筋だっただけに、「プロになれず親に申し訳なかった」という。

退会後は将棋を見るのも嫌だった。飲食店でアルバイトを始めた頃、地元、神奈川の将棋関係者から「教室をやってみないか」。教えるのが好きなこともあり、一念発起。4年前に生徒1人で出発し、評判は口コミで広がった。 中学や高校の部活動でも教える多忙な日々だ。「ブームのおかげですね。子供が将棋を好きになってくれるのがうれしい」と笑顔で話す。

合宿に講師で参加した佐々木勇気六段(23)は「奨励会を退会して苦労を知っているので、その分楽しさを伝えたいという思いが強いのでは」と語る。
これから教室を増やしていくつもりだ。一過性のブームでは終わらせたくない。「奨励会の頃は将棋が楽しくなかった。でも、やっぱり好きなんですよ。習ってよかった、と思ってくれる先生になりたい」

引用が長くなってしまったがまさしく鈴木氏は主人公の安住のモデルのような人物である。
(三段で奨励会を退会した人はこういう人生が多いのかもしれないが・・・)

私は実は鈴木氏に両国将棋センターにて指導対局を受けたことがある。

よく両国将棋センターには来ているようである。最近は私は勤務地が両国から遠くなってしまったので全然いけないのが残念である。

物腰が柔らかく、かつ目線を低くしてくれる方である。また、語り口がすごく楽しい。
当然のことながらプロになっていてもおかしくない実力なので、頭の中に詰め込まれている棋譜の量が半端じゃない(まあ、当たり前なんでしょうけどね)。私が指導対局を受けたときに20手ぐらいで(どれだけ弱いんだ)あっさりつぶれたときに、

「この局面は2002年(だったかな)に〇〇先生の対局で実際にありました。」

みたいな、すげーーー。って当たり前のことながらしびれた次第である。
過去の快勝譜の解説も聞いたのだが、このレベルになると棋譜として表れているのは本当に氷山の一角で、水面下では膨大な駆け引きがされているのだなあと感動したものである。

はじめしょうぎ教室という将棋の教室を横浜のY.Y.world囲碁・将棋という将棋囲碁道場でやっているそうなのだが、近くだったら通いたくって仕方がない。一回3,000円である。安い!近くだったら通っちゃう!って思う。

ちなみに鈴木肇氏は2019年11月17日(ちなみに11月17日は将棋の日だそうな)に入籍されたそうである。実にめでたい。

なんだかリボーンの棋士のレビューなのか、鈴木肇氏の紹介なのかよくわからない記事になってしまった。

現在4巻まで発売されている。

各巻のあらすじ

以下はネタバレなので、読みたくないかたはここで読むことをやめることを推奨します。でも、これを読んだらたぶんこの漫画を読みたくなると思う次第。

第一巻

小学生の頃全国大会で優勝し、天才棋士としての将来を嘱望された安住は三段で年齢制限により奨励会を強制退会させられた過去を持っている。
現在はプロへの道を閉ざされカラオケ店でのアルバイトで生計を立てている。将棋に興味はもうないと言いながらもやはり将棋への想いは捨てがたく残っていた。

安住に対して密かに想いを抱いている、アルバイトの同僚の森から将棋のイベントに誘われ参加することになった。くじ引きで当たるとプロとの対戦ができるというイベントである。
奇しくも、奨励会時代にこの一戦で負けたことにより、プロへの道が絶たれた相手、今は中学生プロ棋士として現在話題の明星六段と平手(ハンディキャップなし)で対戦。明星を見事撃破する。

森「明星六段と対戦したことありますか?」
安住「一度だけあります、負けました。その時の三段リーグで僕は奨励会をやめ、彼はプロになりました」

安住は奨励会員の頃はとにかく負けてはいけないと考え、手堅い将棋を指していた。負けても失うものはない、自由に楽しく指せばいいと考え、とらわれない発想で指した結果の勝利である。少年の頃の将棋を楽しんで指していた時の感覚がよみがえった。ここに天才棋士安住が再び誕生した。

再び将棋を指すことを決意した安住は将棋センターの門をくぐり、そこには同じく年齢制限によって奨励会を強制退会になった土屋と再会する。

土屋と安住は非常に厳しい条件ながらプロへの道が開かれている竜皇戦に出場する。
安住はそこで一流総合商社に勤務し、「アマ名人」「支部名人」「アマ王匠」の三冠を持つアマチュア最強ともいわれる片桐と初戦で対戦する。
片桐は子供の頃プロになるべく奨励会に入りたいと願っていたが、親の無理解から奨励会に入ることができなかったという過去を持っていた。奨励会員に対して敵意を抱いている人物である。彼は自らの力でプロへの道を拓くという強い決意をもってこの大会に臨んでいた。

片桐「遠回りしたが、あと4勝、プロにあと4勝すればプロ編入試験が受けられる。こんなところで負けてる場合じゃないんだ」

持ち時間をすべて使いその結果、鬼手(思いもよらないねらいを秘めた手のこと)がひらめいた安住は激戦を制し勝利をつかんだ。

第二巻

安住・土屋はアマ竜皇戦の東京予選を通過し、全国大会への切符をつかんだ。
強くなるためには強い人と指す必要があるため、奨励会員やプロが参加する研究会への参加を決意する。
どのような顔をして奨励会員たちに会えばいいのだ?という土屋を説得して、土屋の兄弟子の古賀七段が主催する研究会に参加することができた。

古賀七段は「ウェルカムバック」と歓迎の言葉を口にしていたが、二人がいないところでは馬鹿にしていたのだった。

研究会の中の紅一点宇野三段との対戦で見たことのない戦法に翻弄され、安住は力を出すことができず敗戦を喫する。
宇野は女性というだけで格下扱いをする将棋界に対して密かに昔から秘めた怒りを持っていた。
しかし、宇野に負けたことに対して特別な感情を抱かず「3年前はこんな戦法はなかった。見たことがない。これは新しい将棋だ」という感想を驚きをもって語った安住に対して好感を抱く。

研究会の最中、明星六段と最高の将棋界最高のタイトルホルダーまで上り詰めた加治竜皇との対戦の中継があり、これを全員で観戦する。安住にとって加治は子供の頃からのライバルで何百局も対戦した相手である。加治の差す手を安住に予想させ、ほとんどの手を安住は当てて見せた。その中で唯一予想が外れた手は、安住の手が正解であることが後でわかり宇野は驚く。

後日の研究会で安住は古い戦法を新しい工夫を加えた、新戦法を思いつきこれを宇野に試して勝利、プロの古賀七段を含め研究会の全員が感心する。

この時の新戦法を研究会にいながらも、やる気が全くない壮年の小関プロも見ていた。自分の才能の限界を知り、負けも込んでいて酒に溺れている人物。
小関は安住の戦法を使い公式戦で勝利。これを知った宇野は怒りに震える。

ストーリーでは加治竜皇と安住が子供の頃からライバルであったことが語られる。加治は高校生の時にはプロとして活躍するが安住はくすぶり続ける。
奨励会の強制退会の年限を目前として、安住と対局した加治は励まそうとして対局する。しかし、弱気な手を指すばかりの安住に対して「ガキの頃のほうがまだ強かったぜ」と失望する。

アマ竜皇戦の本選でゲストとして参加していた加治は、安住に気が付きながらも何も声をかけない。立場が違う、何を話せばいいのだと。

アマ竜皇戦の初戦で安住は大津と対決することになった。
大津は16歳で奨励会の三段となり将来を嘱望されていたが、17歳で突然奨励会をやめてしまった人物だ。

「将棋は一生やることではない。他にやることがあるのではないか?」と思って将棋をやめ医者になったと安住に語った。

第三巻

大津と安住と一度だけ対戦したことがあり、力の差で圧倒し勝利している。その時は安住に対して無難な手を指してくる怖さのない棋士だと思っていた。
しかし、今の安住からは別人のような恐ろしさを感じた。
安住は大津を下し、将棋をあきらめる決意をし2戦目以降は不参加とした。

土屋の初戦は前アマ竜皇の南。土屋は鉄壁の守りで南を全く寄せ付けず圧勝。

竜皇戦ベスト8の対戦は安住対土屋。ベスト4までに入らなければプロになれる可能性は絶たれる。

土屋は安住に対して苦手意識を持っている。安住の方が自分より強いと思い、嫉妬の念をもっているのである。この大切な一戦に安住と当たることに対してツキがないと思うが絶対に勝つという固い決意で挑む。
いつもは固い受け将棋の土屋は別人のように強気な手で安住に襲い掛かる。

この日ゲストで観戦している加治竜皇と泉七段は素晴らしい将棋であることに感嘆する。

「こんな将棋を三段の時に指せていればプロになれたのに」

土屋が必殺の手を放つ。 安住は持ち時間もなく追い詰められる。 加治は勝負は終わったと思った。
しかし、死地の中に唯一の活路を見出した安住。

加治竜皇「俺だったら、この秒読みの中で詰みを見つけられただろうか・・・」

1手40秒以内に指さなくてはならないという厳しい状況の中、勝ちを見出した安住に対して加治は畏怖の念を感じた。

片桐は川合という本大会最年少の中学生と戦って敗れる。川合は人と指したことがなくアプリでの対戦経験しかないという。

第四巻

川合は父一人子一人の福島県の貧しい家庭に育った中学生である。
経済的なサポートがないと奨励会に行けないことを知っており、父親にはそんな負担をかけられないと思っている。

川合「(父は)離婚してからタバコをやめた。夜 飲みに行くこともなくなった。昼飯も弁当作って節約しているのわかってる。たぶん、全部俺のためだ。奨励会なんて、たとえ10年かかってもプロになれる保証なんてない。現実的じゃない」

優勝すれば三段リーグへの編入試験が受けられる。何もせずにあきらめるまえにせめて一度は試してみよう、どこまでやれるかという想いでこの大会に臨んでいた。

川合の父親は内緒で大会に応援に来ていた。周囲の人は父は将棋のことを何も知らないことに愕然とする。

観戦者たちは史上最年少の優勝へ期待し川合が勝つことを願うなかで、 安住と川合の決勝戦が始まる。

ソフトでつちかった常識にとらわれない将棋を川合は指していく。全く見たことのない将棋に加治をはじめ観戦者たちは、一同大きな驚きに包まれる。 安住は川合が自由にのびのびと指している気持ちを感じ対局を楽しんでいる。

最初は川合が独自の感覚で指しややリードを奪うが、強烈なカウンターを安住がくらわし形勢が逆転する。ついには川合の精神力が尽き安住の勝利に終わる。

付記である

川合が独自に考案したキリン囲いなる囲いである。
この囲いは実際にありうるのか?と棋譜監修をしている鈴木肇氏に聞いてみたのである。

「現代将棋ならあり得ると思います」

だそうである。恐るべし現代将棋である。

最後に

1巻発売が2018/9
2巻発売が2018/12
3巻発売が2019/4
4巻発売が2019/8
なのでそろそろ今月(2019/12)あたり新刊がでそうで非常に楽しみである。